しばらくぶりに、のみの依頼が来ました。
錆(さび)が浮いたり染み込んでいたり、多少ゆるんでいる箇所も含めて調整しました。
のみは、どのように調整するのでしょう?
1.桂(かつら)の調整
参考)のみ各部名称
木材にほぞ(穴)などを加工するために、のみは使われます。その際、たたいて木材に打ち付けますので、たたかれる部分が丈夫でないといけません。そのために桂(下輪ともいいます)で、のみの叩き部分が割れたり欠けたりしないように補強します。
まず、この桂がゆるくなっていたので、きつく締め直します。
取り外しは、玄能を図のように使って、頭の部分(木の部分)を叩きます。
取り外した桂の輪がつぶれています。
この状態だと柄の頭が、桂よりも下にはまっている状態なので、
使って叩いているうちに段々とゆるんできます。
桂の輪のつぶれた部分を削って、柄の頭が桂よりも出るようにします。
丸棒ヤスリで桂の内側を削り柄に入れます。
注)柄を削るのではなく、桂のほうを削るのがポイント!
「下り輪打ち」:ノミの桂を均等に下げる道具。 とても便利!!!
桂から柄の頭が出る状態になるように、桂の上にかぶせて玄能で上から叩きます。
柄の頭が2~3mmぐらい出る程度でOK。
次に、この2~3mm出た頭の部分をつぶします。
水を若干含ませて柔らかくして玄能でつぶしていきます。
要するに、桂の上に覆いかぶさるようにつぶします。
これがストッパーとなり、桂がはずれないようになります。
2.錆(さび)落とし
口金部分のさびも結構染み込んでいました。
インパクトに#180(180番)のヤスリを取り付けて落とします。
落とす・・・というより、「磨く」感じです。
のみの頭部分は、ブラシとクレンザーで磨きました。
3.刃先の水平直し
このノミの刃先は水平になっていません・・・。
多少であれば砥石で直しますが、けっこう曲がっていたのでグラインダーで直します。
この際、ノミに熱が出ますので、水で冷やしながらグラインダーをかけます。
スコヤの内側にあてて、水平を確認します。
4.裏押し
刃の裏側を平らにします。
包丁も、鉋も、ノミも、この裏押しがきちんとされていないと、切れ味が良くありません。
私は、#3000(3000番)の砥石で行います。
5.砥ぎ
いよいよ、砥ぎの段階となります。
今回は、グラインンダーでけっこう削りを行ったので、最初に#320(320番)で荒砥ぎをして、形をつくっていきます。
ノミのしのぎ面(傾斜の部分)を、ピッタリと砥石に密着させて砥ぐのがポイント!
そのままの角度を保って、砥ぎを行います。
けっこう指先に力が入ります。
指が痛くなってきます・・・。
私はすべらないように薄いゴム手袋をつけます。
(すべらないのと、指先の保護のため)
包丁砥ぎでも、ノミ砥ぎでも何回も指を切りました・・・。苦笑
荒砥ぎを終えたら、#1000(1000番)の砥石で砥ぎます。
■ノミ砥ぎは、砥石がかなり削れます。
一定の所を使わないで、全体を使って砥ぎます。
でも砥石の表面が、けっこうデコボコになります。
砥ぎ汁が砥石にくっついて砥ぎにくくなる場合は「名倉」でこすります。
それ以外は、ダイヤモンド修正砥石で平らに直しながら、また砥ぎを行います。
次に#3000(3000番)で軽く仕上げていきます。
その次に、#8000(8000番)で最終仕上げを丁寧に行います。
「砥ぎ」は、番手の低い砥石で削り(キズをつけて)、そのつけたキズを、その上の番手の砥石で細かくして取っていく・・・というイメージです。
表を数回砥いだら「返り」が出てくるので、裏を1回ほど砥ぎます。
仕上げなので刃先を確認しながら、砥ぎすぎないようにします。
なんとか、砥ぎを終えました。
砥ぎ面に周りの映像の影が写ります。
砥ぎ面を少しひねって、その影がゆがまないようであればOKかな!!
最後に、刃物椿油で刃先を保護して、ノミ調整が終了です。
今回は、かなり作業が多い調整でした。
職人さん達は、その日使った道具をすぐに手入れしますので、こんなに時間はかかりません。
料理の職人さん達も同じです。
その日のうちに使った包丁を砥ぎ直して、その日の仕事を終えます。
使ったら使いっぱなし・・・は良くないですね!
食べ終わった食器を洗わないで置いておく・・・
読んだ雑誌を片付けないで床に置きっぱなし・・・
脱いだ服をハンガーに掛けない・・・ etc
何にでも言えることだと思います。
(自己反省もふくめて・・・苦笑)